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「雨雲を…?」
工場から上っている煙は空の雲と混ざるように溶け込み、青い空はだんだんと雲に覆われていった。
「雨雲を作るなんてそんなの聞いたことないわ」
「本当だよ。僕の父さんはあそこで働いているからね」
「どうして雨雲を作る必要があるの?」
「君はこの街に越してきたばかりだから知らないだろうけど、この街は雨が降らないんだ」
どういう事なのかと一瞬思考が停止したが、ここ一週間の天気を思い出し反論をする。
「そんなの騙されないわ。火曜日の天気は雨だったし、それに今にも降り出しそうじゃない」
「そうだね。でもそれは本当の雨じゃない
雨に似せた物なんだよ」
「似せたもの…?」
「偽物ってこと。原料や仕組みは一般市民には公開していないけど、定期的に雨雲を作り出して雨を降らしているのさ。凄いだろ、この街の降水確率は100%さ」
父の仕事を誇るように少年は嬉しそうに言った。
たしかにすごい技術ではある。
しかし──このゾッとする感じはなんだろうか。
「立派なお仕事なのね」
「そうさ!あの工場のおかげで僕達は暮らしていけるからね」
「あなたのお父さんはこの街のヒーローね」
輝いていた少年の表情は何故か寂しそうだった。
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