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「……僕のせいなんだ。
記憶にはないけど僕は病気を患っていたらしくてね、莫大な医療費が必要だった。その為に父さんは──」
「……。」
「だから僕にできることは誇る事なんだ。僕の命を助けてくれた父さんと、父さんの仕事をね」
まるで自分に言い聞かせているようだった。
少年はあの工場に疑念を抱いているのかもしれない。だが自分のために犠牲になった父がいる、あの工場に疑念を持つことは、父の行為を否定する様なもの。
「寂しくはないの?」
「そりゃ、寂しいさ。
けどいずれ僕もあの工場で働くつもりなんだ」
「……お父さんに会いに?」
「それもあるけど。
あの工場で父さんがどんな仕事をしているのか知りたいんだ」
「そっか」
空はすっかり雨雲に覆われ、湿気った空気が肌を包む。
工場からは原料も分からない雨雲が延々と立ち上り空だけでなくこの街も覆ってしまいそうな勢いだった。
「まぁ、父さんには会えないけど年に1回手紙の交換が許されていてね」
「年に1回だけ?」
「手紙も機密漏洩がないか検問されるし枚数も限られてるけど、父さんからの手紙が本当に嬉しいんだ。
……実は今朝父さんから手紙が届いてて、持ってきちゃった」
囚人だってもっと手紙を送れるわ。とは口が裂けても言えなかった。
「もう読んだの?」
「まだ。一緒に読もうよ」
人の手紙を読んでもいいのかと少し躊躇ったが、嬉しそうに手紙を開ける彼の表情を見て、どんな手紙か気になった。
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