眠り続ける森の美女

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「実は、この城は危険だから近づかない方が良いとものすごく反対されました。それでも、どうにか貴方方を助け出したかったので、周囲の反対を押しきって無理にやってきたのです」  その後、アレク王子は、茨の生い茂る森を抜けてくることがどれほど大変だったかということを情熱的に身振りを駆使して語った。  呪われた茨に手足をからめとらるたびに、何度も華麗な剣裁きで断ち切ってみせたこと。茨だけでなく、狼や熊にも襲い掛かられ、何度も絶命の危機に瀕したが、日々の鍛錬で鍛え抜いた体幹と剣の腕でどうにか乗り切ったこと云々。  彼から、ここにたどり着くまでの旅路がいかに危険で、苦難に満ちていて、大変なものであったかということを語り続けられているうちに、姫の心は次第に冷めていった。 (うーん……実際、すごく大変だったのかもしれないけど、本当にここまで力説するほどの苦難だったのかしら?)  彼女が怪訝な顔をし始めたことに、アレク王子は全く気付かなかった。熱弁は、留まることを知らずに続いていく。  三十分近く語り続けた上に、ついに彼が感極まってぽろぽろと涙を零し始めた時には、姫の心のシラケ具合は最高潮(ピーク)に達した。 (いやいや! いくら顔が良くても、自分の武勇伝で感極まって泣くとか無理! ありえないわ!!)  寝台から身を引き起こし、めそめそと泣き始めた彼の脇を通り抜けて、糸車の目の前に立つ。 「おや。姫君、一体なにを……?」  ようやく我に返っておろおろし始めたアレク王子を置き去りにするように、彼女はその手を糸車の錘に突き刺した。
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