風邪をこじらせる

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 目が覚めるとそこは、知らない部屋のベッドの上だった。  いったいいつからここにいるのか。  いや、自分はここを知っている気がする。  記憶がはっきりしないが、覚えはある。  そしてどうしようもない空腹感と、どうしようもない倦怠感、そしてどうしようもない幸福感。  何かから解放されたという感覚は確かにある。  それは耳に入った水が流れ出したような小さくも大きな感覚。  あー、やっと一人になれたんだ。  今までずっと、ボクの中に誰かいた。  あれは、いったい、なんなんだ。  わからない。  どうやら風邪をこじらせて意識がとんでしまったようだ。  何か食べて、元気にならなければ、いけない。  スズキ トモヤスは起き上がった。  口から体液が流れだし、目は真っ赤に充血して、血が流れ出している。 「腹が減った。食べたい」  何か食べたイ……食べタイ……タベタイ……  やっと一人の時間を取り戻した彼であったが、脳の中枢を突き抜けるような強烈な空腹感が、彼を一人でいることを許さなかった。  スズキ トモヤスはカギの開いた玄関を開けて、マンションの廊下をさまよい始めた。  空腹を満たしてくれる誰かを探して……  まるで生ける屍のように。 おわり
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