風邪をこじらせる

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「では、お客様、シマザキ トシオの家までお送りします」 「あー、こいつは、このまま、放置しておいていいのか」 「はい、そちらはのちほど処理班が参ります、では参りましょう」  男たちが出て行った後、識別番号V0038が置き去りにしたスズキ トモヤスは、やっと一人になれた。彼の記憶が最後に途絶えたのは、研究所での事故。 『試験体』が暴れだし、一人の研究員が犠牲になった。 「主任、こいつは、まずいぞ。」 「これは……助かりませんね」 「仕方がない。研究に事故はつき物だ。特にこのような研究には……」 「どうします所長。おそらく症状が発症するまで、6時間か、或いは5時間か……」 「死体を欲しがっている連中がいる。奴らなら、なんとかするだろう」 「死体を欲しがっているって、まさか?」 「そうだ。この場合うってつけだとは思わないか?」 「まぁ、ある意味、彼も生きられるというか……いや、しかし、どんな影響があるかわかりませんよ」 「彼らの能力は半端じゃない。現に末期がんや凶悪な伝染病の患者を何人も救っている」 「救っているって言ったって、あれは生きているとは」 「どうしてだ。寄生というのは別に特別なことじゃない。人間、誰だって――」 「そりゃ、わかっていますけど、それとこれとでは――」 「もういい。早く連絡を取りたまえ、事故があったこと、今の時期、上層部に知られたくないのは、お前もわかるだろう」  スズキ トモヤスは朦朧とする意識の中で、所長と主任の話し声を聞いていた。  ひどく気分が悪い。  自分は死ぬ。  なんせ、このウイルスには治療法がない。それは自分が一番よくわかっている。  でも、所長は何を言っているんだろう?  死体を欲しがっている?  彼ら?  寄生?  まぁ、生きながらえたとしても、二度とここから出ることは……僕は、感染者……  ここでスズキ トモヤスの意識は途切れてしまった。
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