第1章空を飛べるとはどういうこと。

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 ―柊ひいらぎ―という作家であった。その作家の書いた小説が大好きだった。彼女はどこか、人生に絶望して描く小説。その小説の新刊が出ていたので、残り少ない金銭で購入をはたすのである。本屋の定員は微笑んだ。定員は前掛けエプロンをつけて、そこにチリトリでも持たせれば、お掃除をする掃除人に見えた。彼女の微笑みは満遍なく俺たちに注ぎ込まれるのである。俺の世界はとてつもなく小さい、俺ってなんのために生きているのか分からないけど、俺は空に挑戦している。本を公園のベンチで座りながら読んでいった。その話は小学生の頃に見たという、空を飛ぶ人の話だった。それを見たとき、彼女も師匠のファンだったのだろうとおもった。師匠は、ヘリコプターで空を飛び、トランポリンもなく山に追突し、消滅した。  師匠は、行方不明になったが、死んだことをみんながおもった。だから、葬式を開いたのであった。師匠は山に追突してから、行方不明、普通に考えて死んだのである。  だけど、心の中で、師匠がどこかで生きている気がしてならなかった。俺は師匠が大好きであった。世界一と聞かれれば、北海道の中で一番と答えるのである。俺って小さいなと思える。俺ってなんだろう。  俺は本をめくりながら、暖かい風を感じた。冬なのに、温かい風が吹いていた。  セーターも着ていなくて、ワイシャツに、ビジネススーツのズボンを履いてる、リーマンのような格好で、俺は欠伸をかみ締めながら、本のページをめくり続けた。生暖かい風が冷たい風に変わった。ちらほらと雪が降り始めた。俺は、欠伸ではなく、身震いをしはじめ、歩いた。本は握り締め読み終わったので。古本屋に向かうことにした。  古本屋の亭主はさきほどの、喪服を着た老人とまったく同じであった。彼がこちらを見て微笑み、本を渡すと二百円玉をもらった。それで、缶コーヒーを買って、近くにあったベンチに座って、ひたすら暖かい缶コーヒーを飲み続けた。口がぬるくなるのは致し方ない。
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