第1章空を飛べるとはどういうこと。

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「キミが命綱なしで、ジャンプするにいたっての、契約書だ。死んだ場合はこちらを訴えないとかかれているが、死んでしまっては訴えられないだろう」 「それはかまいません、トランポリンがまっています」 「ところが、残念ながら、確実にトランポリンのところに落下できるかはうんしだいなのじゃよ」 「そうですか、なら、なんのためにするんですか?」 「カットビという男を見て、空を飛ぶことの大切さを知ったのだよ」 「そうですか、契約書にはイエスと書きましたよ」  すると、老人は微笑んだ。 「キミもカットビみたいに飛ぶことを祈っているよ」 「お任せください」  俺の発言を聞いて、ヘリコプター場まで向かうと、ヘリコプターを機動させたのは、老人であった。老人が、ヘリコプターを操縦して、空へとぐんぐんと上っていく、味気ない世界が、カタチを取り留めている。まるで、俺に挑戦しているみたいじゃないか、青一色の空が、白の雲にさえぎられて、胸躍る戦いとなっている。その色の戦いは終わることがなかったのだろうか、だが、俺には、それが、確かに終わるものであってほしいと願うのである。俺は色の戦いとは無縁の生き物である。青なら青、白なら白、それでいいじゃないか、深い意味なんてない、たくさんの色があっていいじゃないか、だけど、俺はとてつもない孤独感を感じた。  死ぬかもしれないのだから。俺は、当たり前のように飛び出す決意をかみ締めていたのである。  むなしさとは無縁である。ヘリコプターの轟音に、俺の声が消えていくように俺はただひたすら待った。老人の合図と共に、ジャンプした。風が体中を押しつつむ、まるで体内の台風のようだ。顔がにやりとゆがんでいく。あまりの衝撃で、俺の脳内は理解できないほどのドーパミンを摘出していたのであろう。
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