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「あなたが自身に罰を与えようとするのは、きっと十二年前に起きた水難事故のせいでしょう。
その言葉を聞き、おっさんの表情が変わった。
当時、息子さんと二人で川遊びに来ていたあなたは、前日の雨のせいで流れが早くなっていたせいで息子さんは足を取られ流されそうになった。
あなたは息子さんを助けようと手を取ったが、あなたもまた川に足を取られて溺れてしまった。
その時に、握っていた息子さんの手を離してしまった。
あなたは少し流されたところで助けられたが、息子さんはそのまま流され亡くなってしまった。
あなたは、それからずっと後悔の念に捕らわれ生きてきた。
自殺も考えたようですが、地獄には行きたくはなかった。
けれど、病があなたの体を蝕み、結果ここに来てしまった。
私は先ほども言った通り、天国への案内を強制はしません。
といいますか、強制はできないのです。
あなたを探していたのは、意思の確認がしたかったからです」
おっさんは、下を向いたまま体を震わせていた。
天使が言う、強制はできない理由を尋ねた。
すると、天使は俺の右手を指差し、よく見て欲しいと言った。
言われるがまま、俺は自分の右手を見た。
何もないと思っていたが、凝視すると光る糸が小指に巻かれていた。
おばあさんにもそれがあり、俺のよりももっと太い糸だった。
正確には、三人ともまだ死んではいない。
だが、天使は自身の現状を見てどうするか決めて欲しいと言った。
おばあさんはすでに覚悟があったが、決めてしまえば後戻りは出来ないため、右手の小指を泉に浸けて見るように言われ、また泉の中を覗き込んだ。
記憶じゃないせいか、泉に映し出されたイメージは俺やおっさんにも見ることができた。
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