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―ここは地獄の入口さ。
俺の背後で地を這うような低い声が聞こえ、咄嗟に振り返った。
そこにいたのは、にやにやと笑いながらこちらを見ている、痩せ型のひょろっとしたおっさんだった。
左手首には、糸のほつれたミサンガをしている。
「地獄の入口? 地獄には見えないですけど。というか、俺はまだ死んでませんよ」
「若者よ。人間、時には諦めも肝心だよ」
にやにやと笑いながら言ってるおっさんを、到底信じることはできないが、ここにどうやって来たのかも俺は思い出せなかった。
「ここがどこでも、不思議な場所には違いないわ」
おばあさんは辺りを見回しながらそう言った。
確かに不思議な場所だ。
暑くもなく寒くもない。
戸惑いはあれど不安も恐怖もない。
心は安らかで、いつまでもいられそうだ。
「ここから出たら。今度、家族で来ようかしら」
「地獄が待ってるっていうのに、呑気なもんだぜ」
おっさんはそう言って、ため息をついた。
とにかく出口を探さないと。
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