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走馬灯の泉。
井戸のような鍾乳石の中に水が溜まっている。
泉の底からあふれる青い光で、天井が照らしている。
ばあさんはそれを見て、綺麗ねと天井に揺らめく水面の影を見上げていた。
その隙に、俺は走馬灯の泉を覗き込んだ。
どんな過去が現れるのか。
緊張で生唾を飲み込んだ。
だが、水面は天井から滴る水で揺れてしまい、何も映らなかった。
「なんだ、何も映らないじゃん」
落胆と安堵を同時に感じながら、深いため息が出た。
そんな俺をおっさんは薄笑いを浮かべながら見ていた。
「怖がってないで、もっと集中してみてみろよ」
おっさんは泉に指を差した。
別に怖がっていないと否定すると、自分の死に際が見られるかもしれないなんて楽しみだな、と意地の悪いことを言ってきた。
俺は何故ここにいるのか覚えていない。
もしかしたら、本当は死んだのかもしれない。
泉を覗けばそれがわかるというから、なおさら恐ろしかった。
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