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さっきは何も映らなかった泉だったが、今度は波打つ水面が穏やかに制止すると、ぼんやりとどこかの町中が映し出された。
俺は唖然としながらも、おばあさんの記憶を見ていた。
そこは見たこともない町で、視点はおばあさんのものだろう。
目の前に白い海軍服を着た海兵が現れた。
背が高くて精悍な顔立ちの若い男性がこちらを見て微笑んでいる。
海兵は何かを話しているようだが、俺には聞こえない。
だが、この海兵の男性がおばあさんにとって大切な人だと感じた。
ポタリと天井から水滴が落ちると、水面は歪みまた別の場所が映しだした。
そこでも海兵は、こちらを見て微笑みながら口を動かしていた。
さっきよりも距離は近く、海兵の表情からもおばあさんに思いを寄せているのがわかる。
隣で泉を覗いているおばあさんも微笑んでいた。
また水滴が泉に落ちた。
水面が歪むと、次に現れた海兵の顔は、一変険しい表情で何かを話しているようだった。
だが、海兵の視線が胸元に落ちると、その表情が少し緩んだ。
視点も下がると、胸に抱かれた赤ん坊が見えた。
海兵は赤ん坊の頭を撫でると、おばあさんに何かを伝え敬礼して去っていってしまった。
後ろ姿は遠く小さくなっていった。
そして、水滴が落ちる音とともに、水面が歪み映像が消えた。
隣で鼻をすする音が聞こえ、顔を向けるとおばあさんは涙を流していた。
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