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おばあさんの話では、その海兵に出会ったのは戦争が始まって間もない頃。
明るくて仲間からも慕われていたその海兵の事を、若かりしばあさんは一目惚れしたそうだ。
だが、意外なことに話しかけてきたのは海兵の方からで、二人は意気投合しあっという間に夫婦となった。
息子が生まれてすぐに戦争が激しくなって、その海兵も戦場に向かうことになった。
おばあさんには、必ず生きて帰ると言っていたが、心のどこかでもう会えない事を悟っていたという。
結局、その海兵は戦艦と共に海に沈み、遺品も遺骨も何一つ帰ってこなかった。
おばあさんは、ただ一つ残してくれた息子を大切に育て、その海兵の事をずっと思い続けたという。
話し終えたおばあさんは、遠くを見つめてなんとも言えない顔をしていた。
そして、ぽつりと「私も随分と長く生きたものね」と呟いた。
おばあさんには他にもいくつもの記憶に残るシーンはあったはずだが、一番願っていたものが見られて満足だと言い、俺に礼を言いながら握った手を放した。
「あなたも見てみたら?」
おばあさんは俺の後ろにいたおっさんに声をかけたが、どうやらすでに泉を見た後のようだった。
だが、おっさんには願った記憶ではなく、一番見たくもないものが見えたらしかった。
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