第一章 屋根族とは

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 疾走する帝太は、地下足袋で屋根を蹴っているが、足音は風を切る音よりおとなしい。 「屋根族はかぎりなく静かに移動しなきゃいけない。カラスが歩く音より小さく。そうすれば住民からの苦情は来ない」  帝太は角笛を咥え、屋根の縁から思い切り跳んだ。三階の高さでは、地面に置かれてある資材がミニチュアキッド並みでかわいらしい。 「テイちゃん、ニンジャ!」  幼子の声がしっかりと宙を追ってくる。  帝太は二車線道路を挟んだ先の、二階建てアパートを目指し、空中を駆ける。地上人の持つ幅跳びの記録に、比肩する跳躍力だ。山岳に住む人の持久力が特異であるように、帝太たちもまた異才を放つ。  しかしながら道路の向こう側まで届くなどあり得ない。  角笛の奏でる高周波が、空の一部に切れ目を入れた。ハイウィンの登場だ。  旋回して後方から来るオジロワシの足首を、帝太は一瞥だけで掴む。ハイウィンが両翼を一直線に伸ばし、グライダーと化した。  彼らは横断歩道を使わず、道路を横切っていく。 「フワっちも相棒と仲良くするんだぞ」 「ぼく、とっくに仲良しだよ」
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