第一章 屋根族とは

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 帝太は宙でハイウィンを離す。  強く膝を引きあげて後方へ半回転し、掌を二階屋根につけて倒立した。肘を曲げて音を殺すのは必然だ。 「こっからだぞ」  帝太は一瞬のブリッジから立ち姿勢となり、アパートの長い屋根を走る。 「足は高く上げず、細かく早く動かす。縁を蹴るときは大胆に」  民家二階へ自力で跳び移った。 「関節はバネのように柔らかく。音と衝撃を吸収させろ」  強度に不安のあるボロい物置きの屋根は相手にせず、平屋の屋根へ。足を前後にし、膝を痛めないようにつき、前転する。着地の技術だけでも無数にあるのだ。 「全ての屋根を俺たちの敷地にできるわけじゃない。二階建ての住宅で、一階の屋根から二階の窓を覗ける場合、二階の屋根にしか登っちゃいけないのが道義だ」 「ドウギって?」 「絶対のルールより、ちょい下」  帝太は両足を揃え、縦に近い角度でジャンプした。小柄な彼がダンクシュートできるほどに高い。  頭上に手を伸ばしただけで、ハイウィンが来てくれる。翼の一掻きで跳んだ高さが嵩増し、二階の屋根に足がかかった。 「この連携、基礎だぞ」 「ハイウィンもかっきんね」  帝太は、相棒め乗ってるな、と黄色い足から感じとった。
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