第一章 屋根族とは

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 帝太は軒下で、仲のいい姉弟の話を聞く。 「フワちゃん、さあ行くわよ」 「テイちゃん大丈夫?」 「気にしないの」 「テイちゃんと遊ぶ日だよ」 「お姉ちゃん嫌い?」 「好き。テイちゃんも好き」 「お姉ちゃん大嫌い?」 「大好き!」 「じゃあ行きましょ」 「でもテイちゃんが」 「お姉ちゃんにムギュムギュされたくない?」 「ムギュムギュされたい!」  会話が二羽のオジロワシの羽ばたく音とともに遠ざかる。  地上に落ちた屋根族は、その瞬間から地上人になる。法律と屋根神様の見張る目により、狩猟採集民をやめさせられる。屋根の上を捨てなければならない。未知なる文明社会で生涯を終える人生となる。 「俺、地上人に」  帝太はこれまでの生活を思い起こす。暑い日差し、冷たい風、激しい雨。どんなときでも、ひたすら狩猟採集を繰り返す日々だった。今後もずっと、それしかないはずだった。 「生きる以外の、目的」  道路がすぐ傍にある。 「あれは人間が歩くためにあるんだって。へえ、そうなんだ。俺、これから経験するよ。道路を進んでいくと、その先に何かがあるんだ。俺の知らない何かが」
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