序章 兎希帝太

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「教えてよ。僕、並川(なみかわ)良一(りょういち)、中学生。君は?」 「俺、馴れ馴れしくされてんな」  帝太は少しだがルールを破って喋りすぎたと省み、男子に屁をかます勢いで、尻を向けた。 「まずった!」  踵を返せば、一頭の屋根狼が突っこんできていた。注意を怠り、足音に気付けていなかった。 「俺としたことが」  帝太がさっきまで追っていた、一頭逸れた狼だ。薄茶色の毛並みで、体長七十センチはある。彼の喉元に、獣の生臭い口が迫る。 「屋根神様、怒ったんか?」  逞しい遠吠えを鳴らせられる喉を、肘でかちあげた。  牙からは逃れたが、体当たりされた状態だ。地上の男子に負けじと小柄な帝太は、屋根の縁で堪えきれなかった。  屋根狼を巴投げにしても、それは一緒に落下していく顛末だった。  屋根族最大の掟。地面に降りてはいけない。屋根族をやめ、地上人になる宿命だ。帝太は死より先に、その原則が脳裏をよぎった。 「クソガキのせいだ!」  しかめた帝太の目が快晴を向く。背中側でアスファルトが待ち構えている。うざい男子の悲鳴も近づく。
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