107人が本棚に入れています
本棚に追加
「教えてよ。僕、並川良一、中学生。君は?」
「俺、馴れ馴れしくされてんな」
帝太は少しだがルールを破って喋りすぎたと省み、男子に屁をかます勢いで、尻を向けた。
「まずった!」
踵を返せば、一頭の屋根狼が突っこんできていた。注意を怠り、足音に気付けていなかった。
「俺としたことが」
帝太がさっきまで追っていた、一頭逸れた狼だ。薄茶色の毛並みで、体長七十センチはある。彼の喉元に、獣の生臭い口が迫る。
「屋根神様、怒ったんか?」
逞しい遠吠えを鳴らせられる喉を、肘でかちあげた。
牙からは逃れたが、体当たりされた状態だ。地上の男子に負けじと小柄な帝太は、屋根の縁で堪えきれなかった。
屋根狼を巴投げにしても、それは一緒に落下していく顛末だった。
屋根族最大の掟。地面に降りてはいけない。屋根族をやめ、地上人になる宿命だ。帝太は死より先に、その原則が脳裏をよぎった。
「クソガキのせいだ!」
しかめた帝太の目が快晴を向く。背中側でアスファルトが待ち構えている。うざい男子の悲鳴も近づく。
最初のコメントを投稿しよう!