夢の続き

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 夢を見ていたと思う。  とある一般家庭の中に私はおり、家族構成は父と母、一人息子だった。どうやら、あまり裕福とはいえない経済状況であり、まだ幼い我が子を前にして、陰険なムードを崩さない両親に少年の心は度々傷ついているようであった。  ある日の夫婦喧嘩。いつも通りの日常とさえいえるその時、一つの事件が起きた。 「お前と結婚したのは失敗だったよ」  父親の心無い一言に母親が発狂する。 「アンタの所為でしょう」  眼前にいる息子を完全に無視して繰り広げられる罵詈雑言は止まることを知らず、とうとう一線を越えてしまう。 「つくりたくてつくったわけじゃない」 「産みたくて産んだわけじゃない」  私は自分の心が壊れてゆく瞬間を感じた。  当然悪意はない。この場限りの戯言である。  ただ、決して口にしてはいけない言葉というものは、ある。  虚空に漂う精神をなんとか繋ぎ止める為に唇を開こうとしたが、突如、胸に激痛が走った。  そこで目が覚めた。  とても長い眠りから覚めたような気がした。  重たい瞼をこじ開け、ベッドから立ち上がろうとしたら、見事にこけた。筋肉が硬直し、思う様に全身が動かなかったのだ。凝り固まった部位に軽くマッサージをすること数分、歩行に支障が出ない程度の力を入れることに成功する。  ほっとして間もなく、己が置かれた状況の異様さに気づく。 「ここはどこだ?」  見たこともない建物の中に自分はいた。  寝かしつけられていたベッドから察するに病院のようであったが、年代物、というには汚すぎる古ぼけた一室であった。埃塗れ、カビだらけの部屋は咳込むくらいに空気がよどんでおり、家具の一式はベッドしかなく、天井にある消えかけの電灯と壁に小さな窓があるだけの簡素な部屋であった。  どういう理由かは知らないが、こんな所に人を搬送するなど有り得ないだろう、と若干の憤りを感じて、一言文句を言ってやる為に院内スタッフを探すことにした。  部屋の外も室内同様、薄汚れており、廊下の床はいつ踏み抜いてもおかしくないくらい、ギシギシと危ない音を生み出していた。唖然としながらも、どうして自分がこんな所にいるのか、と考えてみた。  分からない。どうしてこ こにいるのか、思い出せない。  その内思い出すだろうと気を取り直し、院内を歩き回った。
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