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 そうプリントを受け取りながら答えた。と、そこに書かれている名前を見ると。 「筒良さん?」 「はい、わかってるんですけど、私にとっては先生だから、先輩だとなんか変な感じがして」  ああ、思い出した。 「教育実習の時のクラスに居た、筒良さんだ?」 「そう、そうです。うわあ嬉しい、忘れられてたらどうしようかと思っちゃった、覚えててくれたんですね」  錫匁は安心したような顔で、本当に嬉しそうにそう言った。僕はなんだか改まってしまって、どうもその節はお世話になりまして、なんて言って頭を下げた。そしたら錫匁も、いえいえこちらこそ、と頭を下げてきて、二人で暫くペコペコしていた。 「まさか実習先の生徒さんと大学で一緒になるなんて、こんなことあるんだね。宜しく」 「はい先生、宜しくお願いします。あ、また先生って言っちゃった」  錫匁はにこにこして何度も頭を下げながら、講義室を出て行った。僕は久々に実習先のクラスの風景を思い出し懐かしみながらも、あんな子だったっけ、と思った。当時も、変わった名前の子だな、と思ったはずだ。だが名前は憶えていても、顔をよく覚えていなかった。可愛らしい子ではある。しかしその割に目立たないというか、印象が薄い。整っているから逆に覚えられないのかもしれない。目が垂れているとか唇が厚いとか鼻が丸いとか、そういう特徴はない。可愛らしい顔のテンプレートからはみ出す部分がないのだ。太っても痩せてもおらず、身長も女子の平均くらいだろう。髪型もよくあるショートボブ。錫匁の高校は制服だったから、服装で目立つのは校則違反しているギャルやチャラ男くらいで、そのカテゴリに錫匁はいなかった。大学は私服だが、さっきの錫匁のファッションは確かグレーだかブラウンだかを基調とした地味な色合いで、化粧もさほど濃くなかった。多分いつもそんな感じなのだろう。もう一度顔を思い描こうとするが、もうぼやけている。  それにしても、と僕は思った。あの子どもみたいに騒がしかったクラスの子達がもう大学生になる年なんて。あの時僕は学部三年、錫匁達は高校一年だった。会うのは三年ぶりということになる。時が経つのは早いものだ、と急に老けた気分になった。
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