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「よし、そのまま。そのまま。動かないで・・・。」
彼女の綺麗な瞳がカメラの武骨な瞳で隠された。
あたりは一面雪景色。真っ白な絨毯ですべてのものが覆い隠されている。
ただ、絨毯と違うところは、冷たいところ。
「・・・。」
そんな彼女に一本の、マグカップをもった腕が近づく。
「ふわっ!!」
頬にあてられた、まだ湯気の立っているマグカップに驚き、しゃがんでいた彼女はしりもちをつく。
「一体、いつまでそうやっているわけ?」
マグカップの主は彼女を助け起こすとそれをわたし、自分のカップの中身をすする。
マグカップの主は彼女の隣にしゃがみ、言った。
「いい写真が撮れるまで。」
彼女はマグカップで冷えた両手を温めながらその主にそう答えた。
「よくやるね。遥夏も。」
遥夏と呼ばれた彼女は写真部ですから。と胸を張った。
マグカップの主はおれは写真部じゃないんだけどな・・・。などとぼやきつつ再びカップの中身をすする。
「あ。シャッターチャーンス!!」
彼女はおれが何者かの気配を感じて横を向いた時にそう叫び、カメラを構えた。
狐の気配だ。だけど、彼女の写真が・・・。
どうすべきか。
そんな風に悩んでいるうちに狐の気配は近づいてくる。とるなら早くとれ!!
狐がおれの目の前の藪から飛び出してきた。だが、遅い。おれにいた位置に来る頃にはおれはすでに空高くへと舞い上がっていた。
狐が悔しそうな表情でおれを見上げている。
彼女は写真が撮れたのだろうか。
「なんだ。撮らなかったのか?」
マグカップの主が彼女を上から彼女を覗き込んで言う。
「美雪・・・。」
彼女が美雪と呼ばれたマグカップの主・・・女子だったのか!?を見上げて言う。
「手がかじかんで、シャッターが押せなかった・・・。」
「・・・どうすんだ?野鳥の写真・・・。」
美雪があきれたように彼女に問う。
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