序章

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 人は生まれる時代を変えることはできない。当たり前のように思えるが、実際のところ、極めて理不尽なことではなかろうかと思う。例えば、昔の日本では女性は男性と平等な立場にはなかった。いや、今もそうだと女性たちは反駁するかもしれないが、太平洋戦争前の日本では法律のレベルで差別されていたのである。家督を継ぐ順位は男性が優先されており、女子の参政権も認められていなかった。その不遇の時代を乗り越えて今の平等―少なくとも法律上は差別されない―があるのだと人は言うかもしれない。しかし、それでは差別の時代を生きた女性たちはどうなるのだろうか。男に寄りかかった生き方を拒絶し、男女平等を願った数多の女たちは、その恩恵を受けることなく不平等の時代の中で死んでいったのである。その女たちに、あなたたちは不遇の時代を生きたけれど、次の世代の人間は救われると言って納得してくれると思っているのだろうか。そういわれて笑顔でうなずく人間はよっぽどの聖人君子に違いない。
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