ー忘れたい、キス

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「あの、大したものじゃないんですけど。果物です。よろしければ受け取ってください」 「ありがとうございます。では、ご案内いたします」  変じゃないだろうか。  丁寧すぎる受け答えに緊張する。  女の人らしくできているか不安でしかない。  見た目はマキさんの腕は信用しているし大丈夫だろうと思うが、行動に関しては自分の腕次第だ。  上品に、女らしく、なんて普段無縁すぎてボロが出そうだ。 「ああ、夕紀。よく来てくれたね」 「おじいさん。こんにちは。お加減はいかがですか?」  部屋に案内されると、おじいさんはベッドに腰かけて座っていた。  顔色は良さそうだ。 「うっかり足を滑らせてしまってね。腰を痛めてしまったのだ。ワシももう歳だね」 「そんな」 「でも、腰の痛みだけで大丈夫なんだ。心配かけてすまないね」 「いえ。それならよかったです。智哉から聞いて本当にビックリしました」
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