ー忘れたい、キス

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 あんなん、どうってことないじゃん。  別に、俺は女でもないし。  キスのひとつや二つ。冗談で済ませたらいいじゃん。  俯いた顔に、ロン毛のウィッグの髪が垂れてくる。  視界に入るそれも、無償に嫌で乱暴にウィッグを脱いだ。  マキさんがしっかりとめてくれてたからあちこちが引っ掛かっていたかったけど構ってられなかった。  本当は、この化粧もおとしたいけど、自分の視界に入らないからもういいや。 「夕紀ちゃん。智哉もうすぐ来るって」 「・・・来なくていいって言って。俺、別になにもないし。大丈夫だから」 「大丈夫って、なにもないって、そんなわけないでしょう?」 「ほんと、大丈夫だって。大袈裟だよ、マキさん。智哉、今日仕事だし。戻らなきゃだろ? ここに来る余裕なんてないって、だから」 「夕紀ちゃん!」  一気に、捲し立てるように口走っていたら、つんざくような声に咎められた。  マキさんの顔が痛々しいものを見るようで、俺は顔を伏せた。
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