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「夕紀。挨拶を」
「え、あ! 夕紀と申します。おじいさまにお会いできて嬉しいです」
このレストランで培った営業スマイルを駆使して挨拶をする。
これでも、中性的な顔のお陰で人当たりもよく評判だっていいんだからな。
「とても可愛らしいお嬢さんじゃないか。こんなお嬢さんがいるのにどうして教えてくれなかったんだ」
「言ったでしょう。夕紀とはまだ出会って間もないのだと。まだ話す段階にもいっていなかったのです。それなのに、おじいさまが・・・」
「すまんなぁ。どうしても、智哉のことが心配で、心残りでなぁ」
今にも涙をこぼしそうなほど。
そうだ。おじいさん体の調子がよくないんだ。
憎たらしくてもおじいさんにとってはとてもかわいい孫の彼を残してしまうのは辛いだろう。
だから心配で・・・。
「あの、お身体の方は大丈夫ですか?」
「ん? ああ、医者にはもう長くないと言われてねぇ。もうワシもいい年だ。こればかりは仕方がないねぇ。でも、智哉にはちゃんとこんなに素敵なお嬢さんがいたと知れて、本当に嬉しいよ」
長くないって、そんなにひどい病気なのか?
胸が痛む。
遺される人の気持ち、俺にはわかる。
だから余計に、何かしてあげたくなる。
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