ー過ぎ去りし日

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ー過ぎ去りし日

 祖父がホテルの社長であることは、智哉にとってはごく当たり前のものだった。よく祖父母の元に預けられていた智哉はしっかりとおじいちゃんっ子に育ち、祖父がどういうことをしているのか知る頃になれば、大好きなおじいちゃんに尊敬の気持ちもプラスされ、さらに祖父を偉大なものだと思うようになっていた。  でもそれは、祖父がすごいのであって孫の自分はごく普通の少年であることも、智哉はよくわかっていた。だから、祖父がどれだけすごい人で尊敬に値する人なのかと自慢げに話すことはあったが、それを自分の力としてひけらかすことはしなかった。  自分は祖父の会社を受け継ぐ訳ではないことはわかっていた。でも、祖父のようになりたいと思っていた。  でも。高校に上がったくらいから、少し周りの環境が変わってきた。環境が変わったのか、自分がようやく周りが見えるようになったのかは定かではないが。 「九条のじいちゃん、ホテルの社長なんだって」 「仲良くなったら、いいことあんじゃね?」 「いいよなぁ。じいちゃんが金持ちとか勝ち組。俺らのこと見下してんじゃないの?」  見下してなんかいない。気取ってるとも言われたが、気取ってるつもりもない。でも、周りにはそう思えるらしかった。羨み、妬みの感情を向けられていることをひしひしと感じ始めた時には、周りとどう関わっていけばいいのかすっかりわからなくなっていた。  周りは皆自分の後ろに祖父の存在を感じている。智哉にはそう思えてならなかったし、実際にもそうだったのだろう。そこから、智哉が道をそれていくのは簡単だった。
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