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「なぁ、三葉」
「添島先生でしょ」
「三葉はさ、好きなやつとかいんの?」
添島先生、などと他人行儀な呼び方をしたくなかった。自分だけは特別なのだと勝手に思いたかった。智哉が授業に出るようになっても、こうして時おり放課後に色々と理由をつけて呼び出しては話をしていた。彼女はいつも嫌な顔ひとつせず付き合ってくれた。名目は遅れた勉強を見てもらうというものだったから、余計に気安い感じでいられたのだろう。
その日も教室で、教科書とノートを広げて勉強しながら、智哉は話を切り出した。
「好きなって、生徒にそんなプライベートな話はしません」
「・・・俺、三葉が好きだ」
「え・・・」
智哉の告白に、面食らったように言葉をつまらせた。
戸惑うように視線を揺らせ、どう返すべきかと思い悩んでいる様子だった。そこで、気づいてしまった。彼女は自分のことを周りと同じ生徒としか思っていないのだと。それは当然なことなのに、なぜか自分だけは特別なのではないかと思い上がっていた。いや、そう思いたかった。
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