ーそして今

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ーそして今

「ずっと、後悔してた。自分がガキで、自分勝手にしか思いを通せなかったこと。そのせいで、三葉の・・・添島先生のまっすぐに向かっていた教師という職も奪うところだったことも。結局は教師の職は奪われなかったけど、あの高校にはいられなくなった。初めての生徒の卒業式を楽しみにしていたその思いも、俺が踏みにじった」  智哉の重い声が響く。ダイニングのソファに戻った俺が聞かされた過ぎ去りし日の智哉のこと。  それは、とても悲しく辛いものだった。純粋に好きだったその想いが報われず、それどころか、その想いのせいでその人の大切な居場所を無くしてしまったことへの罪悪感。ずっとそれをもって生きてきたのか。 「ずっと、忘れられなかったんだ。人を好きになるのが怖くなった。人を好きになることは、その人の人生を壊してしまうことになるかもしれないって・・・。だから、おじいさんの持ってくる話もずっと断っていたし、いい加減断るのも辛くなって、恋人のフリをしてくれる人を探したんだ」  好きだという気持ちが、大切な人の居場所を奪ってしまう。それはどれだけ辛いものなのだろう。もう恋なんてしたくない。そう思うほどの。
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