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ただ。もうこれ以上、智哉の先生のことを思ってほしくないんだ。それがどんな感情でも。
俺は欲張りだから。智哉の頭のなかは俺で一杯にしてほしい。
「おじいさんっていえば、俊之さんがいってた。おじいさんの病気の話は嘘だって」
「ああ・・・。俺も夕紀の部屋の前で会ったあと聞かされた。そのことについても、すまない。確認不足のせいで夕紀を巻き込んでしまって」
「でも、そのお陰で智哉と出会えたわけだし。俺は嬉しいよ」
素直な気持ちをのべた。最初は確かに勘弁してくれって思ってたけど。それが智哉に出会ってこんな風に心底好きだと思える相手に変わったんだから。
「俺は、夕紀が可愛くて仕方ないよ」
「はぁ?」
心底困ったように眉を下げて抱きしめられた腕のなか。困惑した声をあげながらも、嬉しいって胸がなるのだからどうしようもなく。
大嫌いだったかわいいって言葉も、智哉がいうのなら幸せな言葉になるのだから不思議だ。
不安も、悲しみも、困惑も、すべて智哉が好きだから。
嬉しいも、楽しいも、幸せも。すべて智哉とだから感じる感情。
忘れないでよかった。智哉が俺を引き止めてくれてよかった。
手放すところだったんだ、俺は。自分の手から暖かなこの場所を。
「今度、俊之さんと一緒におじいさんのところにいくことになっている」
「え?」
「夕紀も一緒にいってくれるか?」
「うん。もちろん。あのさその時・・・・・・・」
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