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「あれは、元々依頼していた女だ」
「依頼? え、あの人も恋人役ってこと?」
「まあそういうことだ」
なに、どうやったらそんなことになるの?
恋人に役がいる必要ってなに?
恋人はいませんじゃだめなの?
え、恋人いないって恥ずかしいことなの。え、俺って恥ずかしいの。
「お前は黙って俺のとなりにいればいい」
「ムリムリムリ! なんか聞かれたどうすんの! なんも答えらんないって! 俺、あんたのことなんも知らないし!」
「まだ付き合いたてだという話にしてある」
「いやいやいや! 無理あるって! 名前は! お互い名前も知んないじゃん!」
勘弁してよ。そんなことに巻き込まないでほしい。
いや、自分のせいだってことはわかってんだけど。
だからってこんな仕打ちはあんまりじゃないか。
恋人役。それも彼女の方。性別まで変えて、しかも偽物。
むなしすぎるって。
「そんなことして虚しくないのかよ。本当はいないのに、いるように見せるってことだろ」
「別にそもそも必要ない。だが、それでは安心できないというのだから仕方ないだろ」
「安心できないって、誰が」
不機嫌な顔が俺を見る。
俺だって別に知りたい訳じゃない。
でも、事情くらい知っておかないと。
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