ー忘れたい、キス

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「自分でできるようになった方がいいのかな」 「えぇ? まぁ、練習すればできるようになるでしょうけど、どうしたの」 「いや、毎回マキさんに頼むのも申し訳ないし」 「いいのよ、そんなこと。こっちは好きでやってるんだから」  でも、今だって本業の仕事の合間に時間を急遽とってくれているのだ。  迷惑だろうと思うのだが、マキさんは嫌な顔ひとつせず受け入れてくれる。 「今日は、お見舞いだって?」 「おじいさん、腰を痛めたんだって。智哉はいいって言ったんだけど、心配だから」 「いい子ね、夕紀ちゃん」 「そんなんじゃないって。俺、ほんとおじいさんのこと好きなんだ。自分のおじいさんはどっちも亡くなってるし、いたらこんな感じなのかなって思って」  人のおじいさんに自分のおじいさんを重ねるなんて失礼な話だけど。  おじいさんには色々よくしてもらってるのもあるし、騙してしまっている罪悪感だってある。  できることはしたいし、やっぱり心配だってする。
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