あの世の入口で

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気がつくと、真っ白い空間に横たわっていた。 これがあの世というものかと思いつつ、見回していると、どこからか声が降ってくる。 ひどく掠れ、聞き取りにくい。 そして今まで聞いたどんな声よりも、最悪な音質だった。 ――あんた、誰だよ。 問いかけると、鼻で笑われた。嘲笑、と呼ぶのにふさわしい。 むっとしていると、返答があった。 ――俺様のことを聞くのか。けっ、答えてやる義理はないな。 ――なんだと。 ――そんなことより、周りをよく見ろ。あっちにあるのが何か分かるか。 姿がないのに、それが指差すものが何かが分かる。仄暗く澱んだ空間の中に、ゆらゆらと流れる川。 ーーあれを渡るとお前はあの世に行って、二度と帰って来れなくなる。だが、その前に取り引きをしないか。 ーー取り引き? ーーそうだ。お前を生かす代わりに、俺様の願いを叶えてほしい。 ーー願いとは、なんだ。 ーーこの世にさ迷う魂、つまりは霊的な奴らの願いを聞き届け、叶えてやってくれたらいい。 ーーそんなこと、俺には出来ない。 そんなことぐらいで生かされるならば、叶えてやろうと口にしようとしたところで、何故だか反対の言葉が勝手に漏れていた。 ーーならば、俺様がお前の体を借りることとする。案ずるな、大半はお前のものだ。 それに対して、何事か返事をしようとしたが、急速に辺りの景色が変わり、闇の中に落ちていった。
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