最果ての白

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最果ての白

 目が覚めるとそこには何もなかった。  過去も未来もしがらみも、何もない。  わたしは真っ白な存在だった。  そしてとても安らいでいた。    わたしは真っ白な部屋を出た。  白い砂浜を裸足で歩いた。  青い海が広がっていた。  蒼い空が広がっていた。  透きとおった雲が流れていた。  わたしの足跡は打ち寄せる波がすぐに消し去った。  さらさらと風が吹いていた。  白い花の咲く丘に登った。  丘の上には白いモニュメントがあって、鐘が吊るされていた。  わたしは紐を引いて鐘を鳴らした。  カーン。  カーン。  カーン。  澄んだ鐘の音が優しく空気を震わせた。  妖精が生まれて飛び去っていった。    いつのまにかモニュメントの向こう側に一人の少女が立っていた。  鐘を挟んでわたしたちは見つめ合った。  少女はにこりと微笑んだ。 「こんにちは」  澄んだ声で彼女が言った。 「こんにちは」  澄んだ気持ちでわたしは答えた。 「あなたは誰?」  尋ねると彼女は微笑んだ。 「わたしはわたしよ」 「わたしもわたしよ」  わたしたちは微笑みあい、手をつないで歩きだした。  白い花がそよかぜに揺れていた。 「気持ちいいわ」 「気持ちいいわね」     
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