3 トニヤ・ジョッセルは、東洋猫の店主と相性が悪い

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「タウにお前の子守を頼まれたせいで、早起きし過ぎているんだ。おかげで全然腹が減らないんだよ。それでも、この出涸らしみたいな味のコーヒーに、ちゃんと二ルシー半は支払うぜ。お前のソースがベチョベチョにかかったフライ定食は、五ルシーじゃないか。客質は、ほぼ同じだと思うけどな」 「ところがどっこい、差があるのよ」  少女猫は、画家に向かって意味ありげにウィンクして見せた。 「ねーえ、カトー。美人の相手はできても、コーヒーしか注文しないしけた客の相手はしないのよね」  少女猫がしなを作って微笑みかけると、客に出す紙ナプキンを折っていた店主は、極めて愛想良くうなずいた。それを見て、トニヤは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。 「ダーオ、お前はまだ十歳だぞ。そんな蓮っ葉なことをするもんじゃない。それに、カトー。こいつは少しばかり大人びて見えるが、まだ公立小学校(ボードスクール)の生徒だからな。妙な気を起こしたら逮捕するぞ」  トニヤは鼻息を荒げると、椅子にもたれたままの姿勢でダーオに向かい合った。少女猫は、さもおかしそうに腹を抱えて大笑いしている。 「逮捕するぞって、トニヤったらまだ警官気分ね。そこでパパの元同僚に頼みたいことがあるんだけれど」  ダーオはひとしきり笑った後、トニヤの鼻先に二本指を突き出した。肩や背中の薄さにまだ幼さが残っているが、V字型になった小さな頭とアーモンド形の青い瞳は、まさに母猫譲りの美しさだ。  トニヤは、ダーオのミステリアスに輝く瞳を見つめながら、タウの恋人だったエリス・ラナヤットを思い出した。彼女はエキゾチックな魅力があふれる美女だったが、ある事件の被害者となったため、すでにこの世の猫ではない。
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