3 トニヤ・ジョッセルは、東洋猫の店主と相性が悪い

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「あたしが行きたいのは、私立寄宿学校だけじゃないわ。その次は大学(ユニバーシティ)に行くのよ。あたしは王宮の官僚になるの」  ダーオの宣言に、トニヤはコーヒーを吹き出しそうになった。 「王宮の官僚とは驚いた。本気なのか?」 「もうじき二十世紀よ。世の中全部が新しくなるわ。あたしは王宮の官僚になって、新しい世の中と法律を作るのよ」 「まいったな。確かにお前は、十歳の子供とは思えないくらいに頭が回る。たいしたもんだ。わかった。手紙の件は引き受けたよ」  トニヤは苦笑いしながら、手紙を肩掛けバッグにしまった。 「それで、もう一つの頼みってのは?」 「パパが今追っている事件の内容を教えてほしいの。もしかしたら、二年前のあの事件絡みじゃないの?」  つい今しがたまでにこやかだったトニヤの表情が、一瞬のうちに暗く曇った。画家は慎重に言葉を選ぼうと、長いひげをピクピクと動かした。 「事件の内容は捜査上の秘密事項だ。もちろん僕も知らない。もう警官じゃないからな」 「嘘よ」  ダーオはテーブルに肘をついて身を乗り出した。その青い瞳には光が宿り、ただならぬ思いが浮かんでいる。 「昨日の夜、公園で女猫が殺されたって噂を聞いたわ。両手を縛られて、ひどい殺され方だったって」 「確かに昨夜、残虐な猫殺しはあったさ。しかし、さっきも言ったが現在捜査中だ。二年前の事件とは、つながりがあるかどうかも分からない」 「遺体のすぐ傍に、呪文が彫ってあったと聞いたわ。きっと蒼い服の猫殺しが舞い戻って来たのよ。この噂は王都中に広まっているわ」
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