3 トニヤ・ジョッセルは、東洋猫の店主と相性が悪い

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 ダーオ・ブッチーニの決意は固く、全くゆるぎそうになかった。またしても、トニヤの陰鬱な唸り声が店に響いた。その様子に驚いた店主と、画家の視線が空中でぶつかった。 トニヤは彼の手元を見ると、一つ鼻嵐を吹いた。 「カトー。すまないが、紙ナプキンを少し分けてくれ。それと、こいつを丸ごとだ」  トニヤはテーブルに据え付けられていた、胡椒の瓶を持ち上げて見せた。東洋猫の店主は横目でそれを睨むと、三本指を突き出して返事をした。 「カトーの奴、一瓶で三ルシーとは吹っ掛けてくれるなぁ。しかしこの際仕方がないが……」 「胡椒なんてどうするのよ。コーヒーにでも入れる気なの? 絶対に不味いわよ」 「黙っていろ。今から瓶の蓋を開けるから、うっかり吸い込むと大変だぞ。それとカトーから、折りたたむ前の紙ナプキンをもらって来てくれ」 「紙ナプキンを? 教えて。紙ナプキンをどうするのよ?」  こんな時のダーオはまさしく十歳の女の子で、無邪気に、なおかつ好奇心いっぱいに尋ねてくる。強面の親友から大事な娘を預かっているという、こちらの立場を考えてもくれない。トニヤは、うらめしそうな目でシャム猫の美少女を見た。 「少しは黙れ。護身用に、その針みたいにちっちゃな牙や爪よりも、威力のある物を作るんだ」 「威力のある物って……」 「いいから早くもらって来い」 「……それって、あたしの計画に協力してくれる、ということなのよね」  トニヤが渋々うなずくと、シャム猫の少女はニッコリと微笑み、ピンクの口吻を尖らすと、画家に向かってキスを投げた。
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