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マリーベル・ブッチーニの手の中で、カードはまるで命を得たかのようだった。
ある時は蛇のように連なって蠢き、またある時は木の枝から飛び立つ小鳥のように独立して、それぞれの背に描かれた幾何学模様を主張した。
「おい、今のは何だ? 指先でつまみ上げたカードが一瞬で消えたぞ!」
タウ・ブッチーニは、目の前で起こった不思議に、思わず声を上げた。マリーベルは、驚きを隠せない義兄の様子をミステリアスな微笑みと共に受け流すと、義兄の耳元に手を伸ばした。
「何てこった! さっき目の前で消えたカードが、今、俺の耳の中から出てきやがった……」
タウ・ブッチーニはブルブルと頭を振ると、自分の耳を鉤爪で何度も引っ掻いた。
「マリーのカードさばきは、ウォーミングアップと言うよりも、手品か魔法のようだよな。実際の占いに入る動作の前に、相手の目を釘付けにして、心まで虜にしちまう。兄貴も年貢の納め時だな。マリーの前では、一切の隠し事はできないぜ」
「畜生。とんだことになっちまったぜ……」
ニヤニヤ笑いをこらえ切れないロブ・ブッチーニとは逆に、兄猫のタウ・ブッチーニは、目の前で手繰られるカードを不機嫌そうな面持ちで見つめた。
今夜は久しぶりに兄弟そろっての非番になる。本来ならば義兄弟のトニヤ・ジョッセルも食事に同席するはずだったが、急な用事とやらですっぽかされてしまった。おそらくあの縞猫は、酒場の女猫との約束を取り付けることに成功したのだろう。
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