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王都の概要を空から眺めると、いくつもの蜘蛛の巣が絡み合いながらその網を広げるようにして、道路を伸ばしているのがわかる。
もちろんその発展は多くの自然を犠牲にしているのだが、王都の所々には環境保護の意味合いもかねて、田園の名称を振られた広大な緑地が残されている。それら広大な緑地の中には森林と呼べる場所もあり、そこでは運が良ければ鹿の姿を観察することだってできるのだ。
タウ・ブッチーニ刑事とその相棒のリアム・ヘイデン刑事は、その田園近くにあるランカスター子爵邸の門前にいた。
「ゴルフってのは、そんなに支度に時間がかかるものなのですかね。面会の約束を取り付けていたのに、もう一時間も門前で待たされていますよ」
ヘイデン刑事は、苛々と鉤爪でハンチングの鍔をいじりながら呟いた。それに対して先輩刑事は何も答えず、コートのポケットに両手を突っ込んだまま、子爵邸の三階にある小窓を睨みつけていた。
午前の爽やかな光の下で拭き掃除をするために、子爵邸の全ての窓は、働き者のメイドたちによってカーテンが開けられていた。しかしながら、三階の小窓だけはピッタリとカーテンが閉じられていて、妙に不自然だ。もしかしたらその陰には、自分の姿を見られたくない何者かが潜んでいるのかもしれない。
「おっ、ようやく動きがありましたよ」
若い刑事が色めき立った。子爵邸のロータリーに、すさまじい量の蒸気を吐きながら黒塗りの車が横付けされたのだ。続いて子爵邸の扉が開き、厚手のジャケットにコーデュロイのニッカボッカという姿のランカスター子爵が現れた。
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