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子爵は門前に立つ刑事たちを一瞥すると、面倒臭そうに小さく手招きをした。
「ゴルフ場で友人を待たせている。質問は手短に願いたい」
「承知しています。実は昨夜……」
タウ・ブッチーニ刑事は、事件の概要を簡単に説明した。ランカスター子爵はその内容を、表情一つ動かさずに聞いていた。しかしステッキを持つ手には、みるみるうちに力がこもり、グレーの瞳は暗い影が映るようになった。そして、いよいよタウの話は核心に迫った。
「ところで、ご子息のリチャード様は御在宅でしょうか? できればリチャード様とお会いして、昨夜はどこにおられたのかを、お尋ねしたいのですが」
「残念じゃが、息子はおらんよ。王都にはおらん」
「おや、ではどちらに?」
「王都はおろか、王国中のどこにもおらん。あれは死んだのだ。一年前に南方大陸でな。あれは狩猟旅行中の出来事じゃった」
老貴族の返答は、刑事の闘争心に火を点けるに十分だった。タウ・ブッチーニは目つきを鋭くすると、低く唸るような声で質問した。
「一年前に亡くなったですって? それはおかしい。役所に届け出は出ておりませんが」
「ずっと秘密にしていたのだ。その理由は、息子の死因が子爵家として恥ずべき事態であったためじゃ。息子は愚かにも阿片に手を染めていた。息子は旅先のキャンプで阿片を吸い、そしてそのまま目を覚まさなかったのじゃ」
それだけ答えると、ランカスター子爵は刑事の視線から顔をそらした。表情こそ平静をつくろっているが、老子爵は動揺し、そして怒っている。タウは、なおも食い下がった。
「なるほど。ご子息は阿片で中毒死されたわけですな。ではご遺体はどうされたのです? 墓地に埋葬するにしても、役所や教会に届けがいるでしょう」
「現地で埋葬したのじゃよ。南方大陸は、すさまじく暑いだろう。それで遺体の痛みが早かったのじゃ。以上じゃ」
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