4 ランカスター子爵の用心棒は、かなり手強い

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 ランカスター子爵は、これ以上の質問をさせないように、ステッキを前に突き出して牽制した。その先端の石突部分は、タウの厚い胸板に当たっている。しかし刑事はひるまなかった。 「失礼ですが。殿下は嘘を言っておられる。いかに海外で起きた事故であろうと、役所に届け出をしない訳にはいきますまい。子爵様の御家柄だ。相続承継の件もありますしね。これは殺害事件の捜査です。嘘の証言は、それ自体が罪になるのをご存知ですか」 「罪だと? 無礼者が。お前は、誰に対してものを言っているつもりじゃ」  ランカスター子爵のステッキが、さらに強く突き出された。尊厳を傷つけられた憎しみを込めてねじられ、タウのコートに黒い泥のシミができた。 「さっきも言いましたが、我々は殺害事件の捜査に来ているのです。御子息は、屋敷にいらっしゃいますね。もしかしたら、三階の小部屋に隠れていらっしゃるのではないですか? 会わせていただきましょうか」 「おらんと言っているではないか!」  ランカスター子爵は、ひるまずに押し進もうとする刑事を打ち据えようと、高々とステッキを振り上げた。そのため、タウは反射的に子爵の手をつかんでねじり上げてしまった。  激痛に子爵が悲鳴を上げたその瞬間、蒸気自動車の影から一匹の男猫が飛び出してきて、タウとランカスター子爵の間に割って入った。短毛の黒猫で鼻が潰れており、顔に無数の傷がある。おそらく、拳闘家(ボクサー)くずれの用心棒だ。 「ジャック、無礼者をつまみ出せ!」
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