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タウ・ブッチーニは言葉を失って、義娘の頭を撫でるしかなくなった。ダーオは養父の太い腕の中で、きつく下唇を噛み締めた。シャム猫の特徴的な青い瞳から、幾筋もの涙がこぼれ落ちていた。
「タウは刑事だからな。職業柄、ヤバい状況になることは多いさ。しかし、本当にタウは無類のタフネスだ。その点だけは尊敬に値するんだ。だから……」
「トニヤは黙っていて!」
トニヤ・ジョッセルは、すっかりしおれてしまったダーオの様子を見かねて声をかけた。ところが、その好意は厳しく拒絶されてしまった。取り付く島もない相手の態度に画家が面食らっていると、少女猫はスルリと養父の腕をすり抜けてきた。完全な八つ当たりだが、百ほど文句をつけるつもりだ。
「ダーオ、ちょっと待ってくれ」
シャム猫の少女が、今にも画家に食らいつこうとした時、刑事の大きな手が少女の細い腕をつかんだ。
「お前には、本当に心配をかけてすまなかった。だが、今夜は俺にも一つ大きな心配事があるんだ。それを確かめさせてもらえないか」
タウ・ブッチーニは、自分の前に義娘を呼び戻した。ダーオ・ブッチーニの華奢な両肩は、養父の大きな手につかまれている。
「さっき署に戻った時、花街の娼婦たちの間に妙な噂が流れているとの情報を聞かされた。それは二年前に殺されたシャム猫には子供がいて、その子猫は蒼い服の猫殺しの姿を見ている……という噂だ。まさかとは思うが、その噂はお前が流したのか?」
刑事とその義娘の視線がぶつかった。二匹の猫種は全く違うが、その瞳の色は同じ青色だ。二匹の間に重苦しい沈黙の時間が流れた。
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