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タウは弟猫に突っかかった。
「兄貴はジェシカが嫌いなのか?」
「ジェシカのことは嫌いじゃないさ。だが、糞みてえに太めの雌猫は、俺たちのおふくろだけで十分だってことだ。俺はエキゾチックな細身の猫が……」
途中まで言いかけて、タウはハッと口をつぐんだ。さっきまで上機嫌で細められていた弟猫の眼差しが、一瞬のうちに鋭くなったことに気づいたからだ。
「おいおい、兄貴はまさか、エリス・ラナヤットのことを話しているんじゃないだろうな」
「話しちゃ悪いか。彼女はシャム系の美人だから、たまたま頭に浮かんだだけだが」
「たまたまだって? それが本当ならばいいんだけどな。最近、兄貴が頻繁に彼女に会いに行っているって噂を聞いたぞ」
弟猫の目つきは、ますます鋭さを増していた。タウは小さく舌打ちをすると、居直るようにして胸を張った。
「彼女に会いに、花街へ通っているのは事実だ。しかし、移民手続きの相談に乗ってやっているだけだ。彼女には子供がいるからな。子供を学校に通わせるには、戸籍が必要だろう」
「確かにそうだが。しかし、本当に移民手続きの件だけなんだろうな?」
ロブ・ブッチーニは兄猫の弁明に収まらず、鼻息を荒くしていた。しかし興奮しているのはタウも同じだ。弟猫は兄猫の顔を睨みつけると、ついに決定的な言葉を発した。
「言っておくが、エリス・ラナヤットは街角に立つ娼婦だぞ」
「ロブ。いい加減にしろ」
「それ見ろ、むきになった。よしてくれ。あんな女が俺の姉になるのか? 百ルシー支払えば、誰とでも寝る女だぞ」
「ロブ! それ以上、彼女のことを悪く言うな」
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