8 レース鳩は、銃声に驚いて散りじりになった

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「いやぁ、最高だったなぁ。先輩のパンチは、一発で黒猫の用心棒を打ち砕きましたね。僕はあれを見て、スカッとしましたよ」  ヘイデン刑事は数回パンチを打つ真似をすると、先輩刑事に向かって子供のように微笑みかけた。しかしタウの表情は浮かないままだ。しだいに会話が途切れがちになり、ついに二匹の刑事は押し黙ってしまう。  二匹は、公園の中心部にある見晴らしのいい牧草地へと到達した。するとそこには、数名の警察官が行く先をふさぐようにして待機していた。二匹の刑事の足はそこで止まった。 「さすがは先輩だ。やはりお気づきだったんですね……」  ヘイデン刑事が呟いた。タウ・ブッチーニ刑事はコクリとうなずくと、相棒の若い刑事に向き直った。  タウが合図を送ると、公園の茂みや木の陰から、さらに数名の警察官が姿を現した。ヘイデン刑事は、自分が取り囲まれていることに気づいた。 「あの夜、娘は俺に言ったんだ。射殺された偽警察官の声は、ママを殺した男猫の声ではなかったと。しかし同時にこうも言った。それでも、ママを殺した猫殺しはあの現場にいた。それも俺のすぐ傍に。その声を聞いたとたん、娘は恐怖のあまり、腰を抜かしそうになったと」  タウの言葉を、ヘイデン刑事は黙って聞いていた。その顔はいたずらが発見された子供のようで、悲しんでいるようにも、うっすらと笑っているようにも見えた。  ヘイデン刑事は額に手を当てると、大きなため息をついた。
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