空っぽ

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 目が覚めると、何も無くなっていた。八畳ワンルームの部屋に、ベッドの上に横たわった俺だけ。机も、本棚も、冷蔵庫も、カーテンも、何もかもない。ベッドと俺だけだ。  理由は分かっている。彼女の仕業だ。友だちの紹介で知り合った彼女と交際して、もうすぐ一年になる。部屋がこんな事になるのは五度目だった。決まって、喧嘩の翌日。流石に一度目は驚いたが、今はもう「またか」や「やはりか」なんて思うようになっている。  身体を起こし、床の上に足を出してベッドに腰掛けた。昨夜のことを思い出す。喧嘩の原因は彼女の手料理だ。バイトで疲れていたので、彼女が作ってくれたチャーハンとサラダを残してしまったのだ。  些細なことだ。大した要因でもない。くだらないと言ってしまえばそこまで。  それでも、彼女を怒らせてしまったのは事実で、それが原因で、俺の部屋はこうなっている。仲直りをすれば、また一晩立つと元に戻っている。何故このうようなことになるのか、このようなことをするのか、彼女は教えてくれない。まるで夢の中の出来事のような話だが、事実なのだ。  しかし毎度のこと感心してしまう。一夜にして、ここまで部屋の中を空っぽにできるものなのか。男一人の、狭い間取りの家だとしても。  本棚はまだ良しとしよう。入れられた本類を出せば、本棚自体は軽いだろう。だが冷蔵庫や洗濯機はどうか。女一人で運べるものなのだろうか。いや無理だろう。彼女はどちらかと言えば痩せ型で、とても筋肉質には見えない。スポーツもそこまで得意じゃなかったと思う。男の俺でさえ容易なことではないと思う。  過去四回でそこまで考えた俺は、 次にまた部屋の物が無くなっていた時のためにある仕掛けをしておいた。部屋の物が無くなる真相を確かめるために。  
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