バカ

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バカ

俺の後輩は口が悪い。 女のクセに、何でもすぐに『バカ』で返す。 「あのさぁ。さっきから、なんか怒ってんの?」 怖い顔してファインダーからこちらに視線を移す後輩。 「別に。……何でもありません」 素っ気なくそう言うと、再び彼女は不機嫌そうにファインダーを覗く。 「別にって事はないだろ?何怒ってんだよ。言わなきゃこっちだってわかんないだろ?ちゃんと話せって」 明日は俺ら三年の卒業式。 この学校から居なくなる前に、彼女に伝えたい言葉を発する隙すら与えてもらえない。 「先輩なんて知らない、バカ。もう、私に話し掛けないで下さい。松嶋先輩なんか早く卒業して、この学校から居なくなれば良いじゃない」 「バカとか居なくなれとか、相変わらず口悪りーな。あのさ、俺これでも先輩なんだけど」 「だから何よ」 視線も合わせず、素っ気無い態度。 前はあんなに仲良かったのに、気付けば最近ずっとこの調子。 「……なあ。もしかしてその態度って、さあ。寂しさの裏返しだったりして」 「はあ!?バカっ!そんな訳ないでしょう!?」 顔を真っ赤にして怒る彼女。 「はいはい、わかったわかった。そういう事にしといてやるよ」 「だから違うって。本当に寂しくなんかないもん!」 「あっそう。……なあんだ。寂しいのは俺だけか」 「え……」 眼を見張る彼女。 口が悪い癖してこういうとこが可愛いんだよな。 「お前のこと好きだから、付き合って欲しかったけど。仕方ない、諦めるかあ」 「まっ待って!」 「ん?何?」 彼女の慌て方につい口元が緩む。 「何か俺に言いたい事でもあんの?」 「バカ。そういう大事な事は、もっと早く言ってよ」 いじけて俯く彼女。 それすら可愛い。 「悪い。お前の気持ちダダ漏れ過ぎてて、イジワルし過ぎた。で、どうする?俺と付き合ってくれる?」 「……バカ」 言葉とは裏腹に、繋いできた手は甘えていた。 了
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