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男性諸君、君たちにも一度は経験があるはずだ。目が覚めると知らない天井と目があって、しっくりこないベッドの上に身体をあずけている自分の隣には、知らない女がいた、という経験が。大丈夫、私もその一人だ。だから大丈夫。たとえ衣服を着ていなくても、女の顔が自分のタイプと正反対でも、大丈夫、大丈夫…。
まぶたを閉じて、これは夢なのだと思うことにした。けれども、女の顔がちらつき、ますます目がさえてしまった私は、現実と向き合うしかなかった。
ベッドから抜け出した私はさながらタコのように素早く、慎重であった。今起こしてしまっては、どんな顔をしたらいいかわからない。何も覚えていないと正直に言えるほど、私は強い心をもった人間ではないのだ。
部屋を歩き回りながら、昨夜の出来事のヒントと服を拾い集めた。机にあったマッチの箱に書いてあるバーで出会い、飲み足りない酒をこの部屋であけたことまでは、大量の空き缶によってわかった。服も下半身は着れた。しかしわからないことがある。場所も物も覚えがあるのに、女のことだけはどうしても思い出せないのだ。たしかに誰かと一緒にいたはずだが、それはこの女ではない。
下をはいていても上がなければ外へも出られないので、知らない女を横目に服を探す。女はまだ深い寝息をたてている。お世辞にも綺麗とは言えないその顔に、あらためて後悔が襲ってきた。失礼な話だ。自分だって大した顔ではないのに。けれど誰しも、好みというものがあるわけで。そう、ちょうどこんなかんじの…と手にしたのは、女の枕の下からのぞいていたマスクだった。その私好みの美人には見覚えがあった。この顔だ。これが私の記憶の中の誰かで、今眠る女の昨日の顔なのだ。頬をかき、はたと気づく。私の顔はどこへいった。
慌てて見渡すと、ベッドの隅に落ちたシャツに埋もれるようにして、私のマスクがそこにあった。眠っているあいだに脱げてしまったのだろうか。なにより女が起きていなくてよかった。大したことのない私の顔を見て、同じ思いをさせるのは気がひける。さて、道具は家に置いてきてしまったし、うまくくっつくだろうか。女の寝息が浅くなった。目を覚ます前に顔をつくらねば。
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