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朝。 ベッドタウンから都市部に向かう電車は多くの人々を乗せてゆく。 私はこの路線の端の方から電車に乗るため、運が良ければ座席を獲得できる。今朝は長椅子の端から三人目の席を確保することができた。 私の正面には同じような長椅子が向かい合って在り、乗客が密に詰められていた。彼らの頭の後ろ、窓の外では見慣れた景色が徐々に速度を増して流れていく。駅前の雑居ビルの合間を抜け、幅の狭い川を越えていく。川沿いの桜はとっくに散っていたのに今週になってようやく日中の最高気温が25度を越えだした。 川を越えた先はしばらく田んぼや畑が続く。冬を越えて固くなった畑の土はトラクターでかき混ぜられた。湿気を含んだ土が初夏の日差しをあちこちに散乱させ鈍い光が電車を照らしている。畑の端には真新しい戸建ての住宅がぽつぽつと群となって建っている。屋根も壁の色も何もかもが同じように造られたジオラマのパーツのような家々。私がこの電車を使うようになって10年、あんな住宅が増えてきた。畑の一部を買い上げ、建売されているのだ。農地利用のサポートとして国から補助金がでているらしいが、世代の不交代や実入りの少なさから農地面積は年々緩やかに減少している。 着席してしばらくはなかなか落ち着かない。カバンから参考書を取り出したり、携帯の通知を確認したりするうちに電車は次の駅に到着した。 この駅では新たに乗り込んでくる人が多い。車内の密度がより高くなった。乗客は会社に向かう勤め人や制服を着た中・高校生がほとんどだが、私立の小学校に通う小学生や大きなボストンバッグにたくさんの道具を詰めた専門学校生も見受けられる。
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