舞台装置としての旅人

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 目が覚めるというのはどういう行為だろう。  今日もまた、遊び相手が消えてしまって、そんなことを考える。  私は夢の中の住人って奴なんだと思う。夢を見る生き物たちの遊び相手になるのが私の役目――というより、私の侘しい楽しみだ。  遊び相手になるっていうのは夢の内容を演じることで、誰かが夢を見始めたとき、いつの間にか台本が手の中に現れて夢の舞台へと移動させられる。  台本は最低限、自分の台詞しかない。それを必死に覚えて演じて、また台本を渡されて別の誰かの遊び相手になる。  それが夢の中の住人の一日だ。  死ぬほど忙しそうに見えるけど、不定期に閑散期がある。そんなときに私はそんなことを考えて暇を潰している。  こんな答えがない問い掛けは暇潰しには持って来いだ。  そんな暇潰しをしている中、台本がまた現れた。読んでいるうちに、私は舞台へ運ばれる。  舞台はレストランだ。目の前には男性がいて、その男性の隣には女の子がいる。  この女の子が今回の夢の中の住人の遊び相手だ。  女の子はずっと暗く俯いている。  そんな中、デザートが運ばれてきた。ブルーベリーソースがかかったバニラアイスで、細長いビスケット? が刺さっている。 「はる。お父さんは食べないから、これをあげるよ」  お父さん役の人がそう言っても、女の子の表情は明るくならない。台本通り。  そのあと、お父さん役はトイレに立った。 「はるちゃん、どうしたの?」  私が台詞を言う番だ。 「――お母さんはもう死んだでしょ」  これも台本通り。 「もう、何を言って」 「ねえ、これ食べて良い?」  私が台詞を言う途中、何者かが乱入してきた。乱入者は女の子にアイスを指差しながら笑っている。  舞台のレストランが歪む。 「べ、別にいいけど」  女の子が戸惑いつつそう言うと、乱入者は嬉しそうにアイスを食べ始めた。  夢の中は基本的に何でもありだ。夢の中の住人や遊び相手の台詞が変わったり飛んだりすることは当たり前だが、乱入者が現れることはかなり珍しい。  しかも、こんな改まった服装が似合う空間に魔法使いのような格好をした人間が現れるなんて。現れるだけならまだしも、思いっきり遊び相手に関わってしまった。  もう、台本は捨てるしかない。  乱入者がバニラアイスを食べ終わると同時に、舞台は真っ黒な空間に変わった。
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