舞台装置としての旅人

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「何か君にお礼がしたいんだけど、何かない?」  女の子にそう話し掛ける乱入者の肩を掴む。 「ちょっと、あなた」 「――誰?」  そう不思議そうに目を丸くするのは遊び相手の女の子で、私はお母さんという役柄じゃなくなったらしい。 「もしかして、これって夢?」  女の子はわかりやすく混乱しつつも、正解を言い当てた。 「夢から覚めたくない」  乱入者は「それがお願い?」と声を弾ませる。 「でも、起きないとダメ」  それに対して、女の子は今にも泣きそうな顔に変わり座り込む。 「誰か私の代わりになって、いい子にしていて欲しい」  女の子の言葉に乱入者は「わかった。それがお願いだね」と彼女の頭を撫でた。  そのあと、じっと私を見る。 「ついでに、君のお願いは何?」  そして、私の頭に手を伸ばす。今度は撫ではせずにかざすだけだった。  訳がわからず驚いていると、乱入者が「あっ、ちょうどよかった」と小さく声を漏らした。そこで自分の思考が読まれたことに気付いた。  初めて、私は目を覚ます。そこは学校の保健室ってとこだった。  私はベッドから降りる。校庭では小学生が元気に遊んでいる。  ということは私が代わりになった女の子も夢と変わらない小学生だろう。  夢では色んなものが変幻自在だから、遊び相手であっても本当にその姿かどうかはわからない。 「あら、五島さん。起きたの」  白衣の女性が私を見て「ちょうどよかった」と笑みを浮かべる。  五島さんが一瞬だけ誰のことかわからなかったけど、恐らく私のことだ。 「ちょうど美晴さんが来たところだったのよ」  白衣の女性が廊下の方を見る。そこには一人の女性が心配そうに覗いていた。  私はその女性に手を引かれて学校を出て、車に乗せられる。  とりあえず、外の景色を眺めた。  そのあと病院に行って風邪だと診断されて、恐らく私の家である場所に帰りベッドに寝かし付けられる。  自分のベッドへ向かう途中に和室にあった仏壇を見て、そういうことかとなんとなく悟った。  そこには自分の手を引いた女性より少し若い女性の写真が飾られていた。  私はきっと再婚に納得してなくて、けれども今更反対もしたくない――というより、誰かを苦しめたくない。
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