舞台装置としての旅人

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 いや、もしかすると、納得はしてるけれど、たまに何処かで気持ちの折り合いが付かなくなることがあるのかもしれない。 「――お義母(かあ)さん、ありがとう」  私はベッドの中で濡れタオルを変える女性にそう言う。  きっといい子にするっていうのはこういうことだ。  意外と現実は夢の世界と変わらなかったような気がする。  変わらないなら、慣れ親しんでいる夢の世界の方が良い。  私はそう思って快く帰ってきたけれど、女の子は現実の世界に戻ることを渋っているように見えた。  私は少しだけ頭を使う。 「人生なんて演劇だから、嫌な部分は演じて、美味しい部分だけ本心で楽しんでしまえばいい。それは何も悪いことじゃない」  これは一種のアドリブで、この瞬間も演劇だと思えば何も恥ずかしいことはない。 「というより、それが悪いって言うなら、私全否定だし」  ただ、ほんの一種だけ本心が出てしまったけれど。  私の言葉に納得したかどうかはわからないけど、いつもと同じようにその女の子も消えてしまった。  目を覚ました彼女に私の言葉が残るかどうかもわからない。  私の手の中にまた台本が現れる。次の舞台がもうすぐ始まるみたいだ。
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