プロローグ

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 死者の国ニフルヘイムの雄鶏が鳴く―。  尾を引き、天高く轟いた雄鶏の声は、神の国アースガルズに棲む黄金の雄鶏グッリンカンビを起こし、目覚めたグッリンカンビは、けたたましく叫ぶ。  こうした二羽の雄鶏の鳴き声に呼応して、巨人の国ヨトゥンヘイムに棲む雄鶏フィヤラルが、 ―くけーーー、  と、更なる声で応える。  人間界は混沌(カオス)につつまれる。  無法地帯。誰彼見境なく行われる殺戮。 「あや」と誰かが空を見上げると、太陽が巨大な狼に飲み込まれた。ついで、地球の反対側にある月も、同じ狼に飲み込まれてしまう。  地上は暗闇。  暗澹たる闇―。  光はない。  誰かが血涙を流しながら、叫ぶ。 「ラグナロク(神々の黄昏)がきた」  ごごごごご―。  雷鳴。暗黒の中に一筋の光。そして、重たい雲が(そら)を覆う。  雨。  あまねく死体の山を流してしまいそうな、雨。
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