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三
聖ビルギッタ学園―。
十二世紀に実在したスウェーデンのキリスト教の聖女の名前を冠したこの学園は、小、中、高と一貫教育になっていて、アダムたちは高等部に在籍している。現在は十六歳だ。
一クラス十五人から三十人でFクラスまであり、アダムはBクラスに在籍している。
アダムはイヴレイには、小さい頃、何度か来たことはあった。母親に連れられて、祖父と遊んだ、想い出の街でもある。
「お父様はどうなさっているの?」
ソフィアの言い方には他意はない。ただ純粋にそう思ったから、こう質問しただけだ。アダムは困惑しつつも、
「よくある話だよ」と、前置きしてから、続けた。
「女の人をつくって、家を出たんだ」
ソフィアは、あら、という感じに、気まずさを表情にあらわした。
カールがソフィアのわき腹を肘でつつき、
「ごめんよ。ソフィは悪気はないんだ」
仲間内では、ソフィアは、ソフィと呼ばれている。
「気にしなくていいよ。もう十年も前のことだから」
アダムは首を左右に振り、右手をひらひらさせた。
「まあ、アダムくん。君は幸運だよ」ヨハンが顎をそらし気味にして、言った。
「君には、俺らがいる。いつでも寂しい時は、俺らに相談するといいよ」
ヨハンの高い鼻梁が、一層高くなったように、アダムには感じた。
(心強いかぎりだよ)
「ところで、ここって新校舎なんだね。出来てまだ真新しいね」
アダムが言うように、現在は新校舎が建てられ、そこを高等部として使っている。しかし、現在でも、南側にコの字に延びた廊下で繋がった旧校舎は、残したままになっている。
要するに、新校舎を建て増ししたのだ。
「あ、うん」
カールがまずい物を口に含んだような表情をして、ヨハンとソフィアに目配せした。
「新校舎が出来て、まだ一月ぐらいなんだ」
ヨハンが言った。
それからこう続けた。今では誰も旧校舎には行かない、と。
行かないところか、すっかり先には行けないように、立ち入りを禁止しているという。
それ以上、アダムは訊くべきではないと、空気を察知し、違う話題を切り出した。
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